Sugaar*Mari

ドラパルト×ワンパチ

記憶喪失の羊飼い×その飼い犬

いつかの時代、霊界において「最も猛き者」と呼ばれた騎士がいた。

霊王より侯爵位を拝せし永劫不変のイモータル。猛きシュガールはその日、神の国たるガラルの土地を踏む。

霊界の竜と生者の国の竜の親善交流が念願叶い成し遂げられようとした時、竜の足元には少女がいた。

名を、マリという。

神都において辣腕を振るう領主により土地の管理を任じられた南の執政家の娘である。

シュガールは神都に赴く以前、この執政家によって宿の世話をされていたため、この娘ともいくらか親しくしたものだ。

そして、いざ騎士が神都に向かわんとしたその日、執政家の者が使用人に至るまである悪魔によって殺害されるいたましき事件が起こった。

騎士は彼らに報いるためにも悪魔と戦い──そして、どうしてか殺されてしまったのである。

神のみぞ知るイモータルの命の終わらせ方はその悪魔の掌中に。騎士の首は刎ね飛ばされ、その日一家にあったことは歴史の忌むべき暗部として表沙汰にされることもなく消えていった。


時はすぎ、現代。

マリの手元には竜がいる。

悪魔の作り上げた死者蘇生の秘術は少女とその竜の在り方を捻じ曲げながらも達成された。

竜はかつての記憶のなにもかもを失い、自らの過去も立場も使命も何もかも忘れ、今もまだここにいる。

そして少女は、この不死竜の血肉を啜って生きる魔性へと堕ちていた。

思い出さなければいい。

忘れたままであればいい。

そうすればこの猛き竜は永劫、マリのものになる。

そう願わずにはいられないのだ。