Ignacio*Isabel

ソウブレイズ×グレンアルマ

騎士侯爵とその孫娘

霊界という土地は「絶対不変」の土地である。

どれほどまでに生者の世界が変わったとしても、死者の国である霊界が変わることなどあってはいけないことだ。

ましてやその守護職ともなれば不変を主とした規律を誰よりも守らねばならない。

イグナシオは霊界一誉高き騎士団、即ち霊王親衛騎士団の一員である。

神であり祖である霊王の恩寵を賜りし半不死──イモータルであり、その命は終わりなき不変のものである。

霊王にとり信厚き気高く尊いものたちの中において一際美しく凛々しい騎士であり、霊界の一地方の守護職を霊王により任じられた潔き侯爵。

それが彼であり、その名もまた不変のもの。

その輝きは彼の妻が儚くなろうと、彼の一人娘がつまらぬ色恋に身を窶し家を捨て男と駆け落ちなどという醜聞を得ても褪せることはなかった。

 

しかしそんな具合に、家族関係にいくつもの問題を抱えている彼であるからこそ、孫娘のことだけは特別だった。

娘が男と逃げるために家の犠牲になれとイグナシオに投げて寄越した赤子、母親に捨てられた哀れなイザベル。

イグナシオは祖父として、時に父として、時に兄として、この赤子をめっぽう愛して育てたが──彼は不変の者である。

この気高く、美しく、尊く、凛々しく、厳格で、そして偏屈で、嫌味で、差別的で、人嫌いで、言葉足らずの男が一人で子供を育てることなどどうしてできたであろうか。そもそもの話、娘にはそれで嫌われたというのに。

祖父の過干渉と支配は孫娘たるイザベルの人生をひどく蝕み苛んだ。それは彼の友人らが見ても実に虐待じみたものであり、本当に惨い。

唯一の肉親を世界そのものと思いこまされている気の毒な少女。

彼の友人はこの少女を連れ、生者の世界へと逃がした……が。

最愛の孫を奪われた騎士の怒りは他の者全てが恐れ慄くほどに苛烈で、尋常ではなかった。

それは「絶対不変」を重んじる偉大な騎士に職務も領地も放棄させ、彼を生者の世界に招くほどに。