Hishikawa*Yuri

ボーマンダ×ミノマダム

軍警察総監を務める公爵×元奴隷の鬼族

古き時代むしの氏族は最も勇敢な戦士であり、最も統率のとれた軍隊を作ることができた。人々はその偉大さを讃え祈ったという。

初代皇帝は彼らの武力を信じそれを頼りに各地を平定し──最後に氏族の長に逆賊の汚名を着せその首を切り落とした。

以来この帝国において彼らは長らく「鬼」と呼ばれ、最も優れた「軍隊を作る能力」を徹底的に削ぎ落とさせるために「集会の禁止令」を発布。その法令が彼らを被差別民の立場に突き落とした。

国を失い故郷を失い友と寄り添うことさえ許されず、流浪の民は決して人目に触れぬ地へと隠れ潜むようになっていった。

 

時は流れ、現代。

軍警察は治安維持に努める憲兵組織である。その当時菱川隆という青年はその軍警察の片隅も片隅、僻地の収容所に勤務していた。

この組織に無理やり入れられたはいいもののやる気もなければ思想もなく、単純に「家族に失望感を与えるため」だけに選んだ職務である。

「穢らわしい劣等種である鬼の収容所に公爵の名を持つものが勤めるなど」という言葉は彼の実父の放った言葉である。

もう誰にも支配されたくない。

菱川の願いといえばこの程度のもので、公爵の務めさえ放棄し、漫然と日々を過ごしていた時のこと。

集会の禁止令を破り徒党を組む鬼どもを見つけたと腹心から報告が上がる。

報告が上がったからには赴かねばならない。彼らの粛清もまた治安維持の内である。

つまらない仕事、つまらない日々。それであっても厭うたすべてのものに関わることなく生きるためには仕方のないことだった。

大規模な粛清が起き、鬼たちを連行し収容所に送った後のことである。

菱川はその後の人生を大きく変える出会いをすることになる。

 

Après moi le dèluge